傀儡の恋
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「……カガリとアスランがプラントに行く?」
どこからかかかってきた通信にバルトフェルドがそう聞き返している。
「何でそんなことになったんだ?」
彼はさらに言葉を重ねた。
「あぁ……なるほどな」
それも調べてあったのか。相手が何かを言っているらしい。バルトフェルドの相づちからラウはそれを推測した。
「……最近、コーディネイターの移住希望者が増えているからか?」
ラウはそうつぶやく。そのせいでモルゲンレーテの開発部門で支障が出てきたのかもしれない。
必要のないコーディネイターは追い出したいが、有能な者は手元に置きたい。そんなことを言うのは、間違いなくセイランだろう。
「本当、人の意識とはやっかいなものだね」
たとえ平和になっても──いや、平和になったからこそ己の常識から抜け出せない。
セイランにしてみればコーディネイターはただの道具なのだろう。どのような扱いをされても黙って耐えるものだと思っている。
しかし、コーディネイターはロボットでも何でもない。自分の意思を持った人間だ。多少、ナチュラルよりも脳や身体能力の許容範囲が広いだけである。それも努力しなければ何の意味もない。
つまり、彼らが有能なのはそれだけ努力したからだ。
同じように努力すれば、ナチュラルでも同じ程度の能力を得られることは、過去の自分が知っている。
もちろん、そうならない方が多いのは事実だ。しかし、最初から努力もしないような者は大口をたたく権利はないと思う。
「本当、人間は愚かだね。与えられた環境が己の力だと勘違いしている」
思わずこんなつぶやきがこぼれ落ちる。
「少しでも状況を変えようと努力している人間を見ていなければ、世界に絶望していたところだね」
本当に、と続けた。
「真顔でそういうこと言うな。怖いだろうが」
通話を終わらせていたのか。バルトフェルドがため息とともにこう声をかけてくる。
「セイランの息子には会ったことがありますからね」
あれの人間性は最悪だ。そう続ければ思い当たる節があったのか。小さくうなずいている。
「……と言うことは、ひょっとして新議長どのにも?」
「仕事でお目にかかったことがありますよ。マルキオ師がご存じの相手と一緒にですが」
それが何か、と視線だけで問いかける。
「どのような狸だ?」
即座に彼はこう口にした。
「見た目はともかく、中身はかなり黒いと思いますよ」
カガリでは翻弄されるだけだろう。心の中でそうつぶやく。
「なるほど」
やっかいだな、とバルトフェルドはつぶやいた。
「だからといって、あいつを止めるのは不可能か。アスランもどこか抜けているからな」
間違いなく言いくるめられて終わるだろう。
「と言っても、止められないんだがな」
小さなため息とともにバルトフェルドはつぶやく。
「会談の場所は?」
ラウは無意識のうちにそう問いかける。
「アーモリーワンだそうだ」
この言葉に脳裏にそこのデーターを思い浮かべた。
「なるほど。あそこにはザフトの研究所と基地があったな」
おそらくプラントに渡ったコーディネイターの技術者達がそこに回されているのだろう。ラウはそう推測する。
「そのほかのプラントが完成したのだろうな」
さらにそう続けた。
「その式典を名目に向かうと?」
「推測だがね」
「俺も同じ結論を出すだろうがな」
それはそれでものすごくいやだ。だが、とため息をはき出しつつ考える。だからこそ、ある一点では信用できるのだ。
「そちらに関してはいつでもフォローできるようにしておかないとな」
その言葉にラウは小さくうなずいていた。